あ〜、先に「あたあん」で書かれてしまったか。まぁいいや、俺は俺で書いておくとしよう。
ここんとこずっと忙しくてね。息子であるコウと対面する時間が無い。毎日遅く帰ってくれば寝てるし、起きる前に家を出なくちゃならないし、土日も仕事だったりなんかしたりしてもう。
どうもね、俺の顔を忘れちゃうみたいなんだよ。珍しく早く帰ったりして、久々に起きてる我が息子と対面すると、「あれ、この人誰だっけ?」てな顔をされる。ように見える。自分自身、息子と触れ合う時間がとれないという自責の念が、そう見せているのかもしれないけれど。
事実、母親であるタカの声には過敏に反応するんだ。俺が抱っこしてあやしていても、彼女が何か声を発するだけで「何?」とそちらに顔を向ける。逆の場合はそれほどの反応は示さない。ような気がする。これも気のせいなのかもしれないけれど。
とにかく、仕事の忙しさ、うまくいかないやら分かんないやらなんやら、そして妻と息子と触れ合う時間がなかなかとれないことで、正直かなり凹んでいた。いや、正確には未だ凹んだままでは有るけど、でも今は少しだけ凸へ盛り返したかもしれない。それは、昨日の出来事があったから。
23時過ぎ、会社を出て、帰るコール。するとタカが、いつになく弾んだ調子で「本日大事件が!早く帰ってきて!」などという。
大事件?と思い、色々思い返してみるものの、なかなか思いあたらない。が、しばらく歩いて、歩道橋を越え、コンビにの前あたりでふと思いついた。慌ててメールをうつ。
「寝返りうったんだ!!」
予想が当たっているとすれば、それは確かに大事件だ。一大事だ。そしてそれはおそらく当たっているだろう。タカからの返事が届く。
「ビッグニュースは帰ってからのお楽しみ。」
予想が確信に変わる。彼女がもったいぶる時は、大抵そうだ。
「なんだよー なんなんだよー(T_T)」
悔しがっている振りをしておいて、家路を急いだ。
家に帰り着くと、彼はおばあちゃんに抱かれてそこにいた。俺は着替えもせず、荷物を放り出して、早くそのビッグニュースとやらを教えてくれと催促する。
布団の上に仰向けに降ろされたコウは、はじめ、おばあちゃんの「コウくん、『コロン』は、『コロン』?」の声になかなか反応を示さない。家族全員から注目を浴びていることに、ちょっとばかし驚いているようだ。
痺れを切らした俺は、おもちゃを片手に、コウを誘導し始めた。
「ほら、コウ、こっちだよ。」
驚いたことに、彼はそのおもちゃを掴もうと、いとも簡単に体を90度まで起こした。ついこの間まで、それすらできなかったというのに。もう、なんつーか、この時点ですでに涙ぐんでたんですけど俺。
90度まで起こしては戻り、90度まで起こしては戻りを何度か繰り返しつつ、根気良くチャレンジを続けていると、遂に
コロン
と寝返りに成功。そして溢れる俺の涙。
しばし感動に浸りつつ、しかしつくづく思ったのは、「おやじは不利」ってことだ。たまたま家にいる時にその瞬間がやってくれば良いけれど、大抵、コウの何らかの「初めて」は、タカが目撃することになる。そもそも、触れ合う時間が少ないというだけで不利だ。
思わず「おやじ不利」と呟くと、タカが嬉々として「ね、お母さん、やっぱり私が言った通りでしょう。泣いてそして『おやじ不利』って。」などと言う。母はそれを聞いて笑っていた。そんな鬼の首とったみたいに喜ばんでも良いでしょうに。事実なんだからさ。
でもまぁ、なんかね、そんな雰囲気を、空間を、あらためて心地よいと感じた。そんな我が家の大事件でした。
だからさ、今日は早く帰ろうと思ったのに。早く帰れるはずだったのに。営業から未だ電話がかかってこない。メールも届かない。どうなってんだ。
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